稲荷と神の縁結び
下から見上げられ、顔を覗き込まれて一瞬ドキンと心臓が跳ね上がるが…私はさっさと顔を横に向き、清貴さんから顔を背けた。


「………何?こはる」

「………今日の森岡さんの、本当なんですか?」

苦虫を噛み潰したように眉を顰め、私はまた配膳を続ける。


「バイヤーの件、滋子様の耳に入ったからあの日呼び出されたんですよね?イマイチ会話が噛み合わないなぁと思ってたんですよ」

人生で一番と言って良いほど、あの日は緊張した。噛み合わない会話に、雲った表情の滋子様…地獄としか言いようがなかった。


結局何が聞きたかったのかわからなかったが、バイヤーを断った件を聞きたかったのなら…まぁ納得できる話である。
バイヤーは実質社長の右手扱いなのだから、私に興味を持つのは不思議ではない。


清貴さんは一瞬目線を逸らすと‐「あぁ」と呟く。
そして困ったように頭を引っ掻いている。何だか腹立たしくなってため息をつくと「その件じゃなんだけどな…」と。

「……え、違うんですか?」

だったらあれは、何だったんだ……?


「……彩馨のバイヤーの話が持ち上がったのは二年前だ。こはるが本部に移動が決まっていたから、人事に話が来た段階で止めてたんだ」

そう言われて‐二年前を回想する。
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