偽装夫婦～御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない～

あなたの隣

【あなたの隣】

「お熱を計りましょうね」

　そう声をかけ、額にピッと電子体温計をあてる。子供も多く来院する中村クリニックでは重宝するアイテムだ。

「三十八・三度。もうすぐ先生に診察してもらえるからがんばろうね」

　わたしの声かけに、母親に抱きかかえられた小さな女の子はコクンとうなずいた。

「小沢さん、こっち手伝ってくれる？」

「はーい！　すぐに行きます」

　受付の手伝いをしていると、診察室から中村先生に呼ばれた。問診票に女の子の体温を記入して、受付担当の真鍋さんに引き継ぐ。

「ありがとうございました。それにしても、先生人使いが荒すぎます。小沢さん大丈夫ですか？」

　診察も受付も手伝っているわたしのことを心配してくれているようだ。真鍋さんは診察室のほうを見て軽く睨んでいる。

「平気よ！　忙しいほうがいいから。いってくるね」

　診察室に向かうわたしに、彼女はやれやれという顔をした。