偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 心配してくれるのはありがたいけれど、今のわたしにはそれよりもこの忙しさのほうがありがたかった。

 川久保家から出て三週間余り。

 わたしは結局ウィークリーマンションへ移った。中村先生のクリニックも辞めるつもりだったのだけれど、先生に「困る」と強硬に反対され、正規の看護師さんが復帰するまで続けさせてもらうことにした。

 バタバタと走り回っているうちは、色々と考えすぎて落ち込まずにいられる。仕事のことだけを考えていられる時間は、本当にありがたかった。

 最近は午後の訪問診療にも同行している。一日フルで働いた後は疲れきって眠るだけ。

体が疲れていない休みの日は、色々と考えて眠れない日もあるので、今のわたしは仕事をしているほうが都合がいい。

 午前の診療が終わるのは十三時を過ぎたころ。患者さんの数によって前後することはあるのもののだいたいその時間だ。

 昼休憩もそこそこに、午後の訪問先のカルテをそろえようとリストを確認する。

 その中におばあ様――もうそう呼ぶ資格はないのだけれど――の名前を見つけた。
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