偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
 しばらくその背中を見ていたが、彼の姿が完全に見えなくなった途端わたしは、その場にへなへなと座り込んでしまいそうになる。

「おっと危ない」

 川久保さんの大きな頼りがいのある腕が、咄嗟にわたしを支えてくれた。

「……すみません」

 足を踏ん張って自分の力で立つと、川久保さんが心配そうにわたしの顔をのぞき込んだ。

「大丈夫ですか? ずいぶんしつこくされていたようですけれど」

「お見苦しいところをお見せしまして、申し訳ありません」

 謝るわたしに彼は柔らかい笑顔を見せた。

「あなたが謝る必要はないでしょう。被害者なんだから」

「いえ、わたしにも原因がありますから」

 あんな男とつき合ったのは自分だ。見る目のなかった自分にも責任がある。

「そんなふうには見えませんでしたけど。あなたは自分を責めすぎじゃないのかな?」

 そう言われて、びっくりしたと同時にどこかほっとした。

 どうしてあんな男とつき合ってしまったのか? 本性を見抜くことができなかったのか?

 別れ話が出てからずっと自分自身を責めてきた。それが間違っているとは思わないけれど、誰かに「わたしは悪くない」と言ってもらいたかったのかもしれない。

「そうでしょうか?」

「そうですよ」

 優しい声で断定されると、ふと体の緊張がとけて、頬がゆるみ笑顔になった。

 一瞬川久保さんの目が驚いたように軽く見開く。そして彼も笑顔を浮かべた。
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