偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「そこは勘違いしないでください。報酬は看護師としてのあなたに払うもの。夫婦のフリは、まあ、そうですね。付随業務だと思ってくれればいいです」

「不随業務ですか?」

 わたしの質問に、川久保さんは力強くうなずいた。

「そう。ついでみたいなものですよ。だからあなたは祖母の介助の仕事を頑張ってくれればいい。そして時々、祖母の話に合わせてくれるだけでいいですから」

 そう言われると少し、気持ちが軽くなった。

 実際にお給料がもらえるのはうれしい。この仕事が終わった後、露頭に迷うことになっては困る。

そしてキャリアが空いていないほうが、次の就職にも有利に働くに違いない。

 自分でも現金だなとは思うけれど、彼の申し出は魅力的だった。

「どうでしょうか?」

 わたしの心の機微を、目ざとい川久保さんは見抜いていた。だからこそ、最後の一押しといわんばかりにじっと見つめてきて目で説得にかかっている。

 その効果は抜群で、今から自分がやろうとしていることが、正しいことのように思えてきた。

仕事も得られて、すこし……嘘はつかなくてはいけないけれど、それが人のためになるなら……。

 このときのわたしは、完全に川久保さんに言い含められていたように思う。

「わかりました、この話お受けいたします」

「そうですか! ありがとうございます」

 満面の笑みをたたえた川久保さんが、勢いあまってぎゅっとわたしを抱きしめた。

「きゃあ!」

「あ、すみませんっ……」

 彼はすぐに離れてくれたけれど、顔が熱い。きっと赤くなっているはずだ。

 川久保さんはスキンシップが多いような気がする。恋人でもない男性にされれば普通は嫌なはずなのに、彼のは嫌じゃない。不思議だ。

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