キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
「恋人は名前で呼び合って、想いを確かめ合うものなの!」

「確かめ合う気はない」

「もう……それでも誰が聞いてるかわからないし、これは決定事項です!」

「最悪だ……」

 ちょっ、どんだけ私の名前を呼びたくないの!? 普通に傷つくんですけど……。

「はぁ、妥協する。飛鳥、これでいいんだろ」

 〝これでいいんだろ〟は余計だけど、飛鳥って名前を呼んでくれた。どうしよう、それだけで幸せっ、顔がニヤける。

 ムヘへとお世辞にもかわいいとは思えない笑みを浮かべていると、宙斗くんの顔は不快とばかりに歪んでいく。

「おい……笑ってんなよ」

「ははっ、ごめん、ごめん」

 でも、うれしすぎて無理! 好きな人に名前を呼ばれるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるものなんだ。初めて知ったよ、こんな気持ち。

「宙斗くん、不束者ですが……」

「やめろ、結婚の挨拶みたいだろ、鳥肌が立つ」

 宙斗くんは本気で嫌がってるけど、こうして言葉を交わしてくれることが私はうれしかった。彼は私となんて関わりたくはなかっただろうけど、それでもきみと一緒にいられる口実ができてよかったと私は思ってしまうんだ。

 私たちを繋ぐのは長さ三十センチの赤いリボン。そこには見えない【KEEP OUT!】の文字が見えた気がして、私は苦笑いをこぼすのだった。



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