偽のモテ期にご注意を
『良かった、勘違いに早く気付いて。・・この鍵、返さないと』
掌の中のカードキーを眺めながら、そんな事を考え、駅に向って歩いていると、直ぐ脇に車が停まった。
「圭奈」
呼ばれて車の方を見ると、タクシーのドアが開いて、置鮎が降りて来る。
「・・置鮎さん」
「今日は早く終わったんですか?」
「え、えぇ思ったより早く片付いたから・・・」
「俺もです。良かったら、このまま家に来ませんか?」
会社帰りだろう三つ揃えのスーツが良く似合うなぁと、ぼんやりと見つめていたら、不振がられてしまう。
「あ、あぁすみません。そうね。伺ってもいいかしら?」
『鍵も返したいし、丁度良かった・・』
また、痛む胸を無視してタクシーに乗り込んだ。