水性のピリオド.
じっと視線がつむじの辺りを定めてる。
そちらから去ってくれるのが都合がいいんですけど、どうでしょう。
キーホルダーを拾ってもらった手前、偉そうなことは口に出来ない。
何か要求があるのなら早くしてくれ、と願ったときだった。
「名前は、学年は?」
「嶋田です。二年」
「あ、そう」
咄嗟に適当な嘘を吐くことも忘れて、名字も学年も本当のものを教えてしまった。
まさか不審者じゃあるまいし、疑っても仕方ないんだろうけど、わたしの危機管理能力なさすぎじゃないかな。
木々を揺らして雲を晴らすような強い突風が吹いた。
ブレザーの襟から肌を滑った風に身震いをする。
ふと、寒がりな後輩の姿が脳裏に浮かんだ。
先のやり取りを思い出すと、苦いものを奥歯で噛み潰したように顔が歪むのがわかる。
「なんつー顔してんだ」
「あ……」
目の前に人がいることを忘れていたわけじゃない。
ただ、肌を撫でて血管を締め付けるような冷たい感覚が春乃くんと結びついて、そちらに気を取られてしまった。
「あの……」
春乃くんがわたしに何かを話そうとするとき、毎回のようにどもるのが不思議だった。
そろそろ慣れてくれてもいいんじゃないか、と距離を感じで寂しくなることもあったのに。
わたしも、今、同じことをしている。
この人が年上なのか同級生なのかはわからないけど、とても慎重に口を開く。
「……えっと、」
何を口走ろうとしているんだろう。
わずかに震える指先をくちびるに押し付けて、黙った方がいい。
正常な判断ができない自覚があるのに、どうして。
瞬きをするたびに、閉じた瞼に春乃くんの姿が浮かぶ。
開いた瞬間には、目の前の男の子が映る。
わたしは、残像よりもずっと確かな現像に触れたがった。
「一週間、付き合ってもらえませんか」
クラクション、サイレン、ミュージックホーン。
頭のなかで警笛の音がたくさん交わりあって、頭痛がした。
こう言ったら、春乃くんはきっとぽかんと口を開けて、もう一回と聞き返す。
だけど、この人は違った。
眉根を寄せるでもなく、困惑の色をちらりとも見せずに、言った。
「いいよ」
ひどく、冷めた目を向けられた。
きっと、その目に映るわたしも同じ顔と目をしているのだろう。