水性のピリオド.


「おれのこと、嫌いになった?」


「ううん」


「おばさんとおじさんと、杏ちゃんと叶人くんに、おれなんかやめとけって言われた?」


「ううん」


「サスケは俺のこと嫌い?」


クゥン。

サスケが寂しそうに、悲しそうに鼻を鳴らした。


ちがうよ、サスケははるのことが好きだよ。


「先輩、おれのこと好き?」


「うん」


やめてよ、自分で聞いておいてびっくりするの。

たった二文字の肯定は、たくさんの言い分や意味のちがいを引き連れているけど、はるからは見えないものばかりだ。


好きだよ。はるのこと。

でも、その好きは、はるの好きとはちがうんだ。


上手く言えないんだけどね。

たとえば、ライクとラブのちがいみたいなことじゃない。

横文字はあんまり得意じゃないから言い換えると、ちゃんと恋慕としての『好き』をはるに対して持ってる。


はると同じ色の気持ち。

はるは信じないだろうけど、同じくらいの大きさの気持ち。

はるより少し短いけど、ほとんど変わらない経過を経た気持ち。


それでも、なにか、どこかがちがう。

そう、たとえるなら、これしかない。


「わたしの 好き は水性だからさ」


薄れていくんだ。

わたしもそれが実はいやで、かなしくて、止めたくて、必死に水性の文字を重ねようとするんだけど、もうインクがつかないんだ。

残された油性のペンは、好きって文字に重ねるにはあまりにも毒々しい色をしていて、はるの好きを飲み込んでしまいそう。


だから、べつの言葉を重ねた。

『好き』の文字の『子』の部分の横棒がまだ残っていたんだけど、それすら覆って見えなくするみたいに『別れよう』って書いた。


< 4 / 49 >

この作品をシェア

pagetop