水性のピリオド.
水性のピリオド.





「と、まあ、昨日までとっても幸せでした」


随分と長く話をしていた。

喉は乾ききって舌の根には苦味が滲む。

無視のつもりか、わたしが話しているあいだにはるは一度も相槌を入れなかった。

ところどころ、クスッと笑ってしまいそうなエピソードも入り混ぜたつもりなんだけど、息をもらすことさえしない。

笑いを我慢している様子でもなかったし、よほどわたしの話がつまらなかったのだろうか。


なんて、つまらなかったかどうかはさておき、わたしが軌跡をなぞって聞かせた出会いから昨日までの話を受け入れられるような状態じゃないだけだ。

少しは落ち着いたか、と耳元で問うけどやっぱり返事はない。

だけど声は届いているようで、背中に回った手に力が込められた。


「先輩、おれのことすごく好きじゃないですか」


たくさん、話のなかでひどいことを言った。

岩井くんのことは、これまでに一度もはるに話したことがない。

これが恋人の言い分なら呆れも悲しみも怒りも通り越して唖然としてしまう。

でもはるは岩井くんのことは触れもせずに、そう言った。


自惚れでもなんでもなくて、その通りだよ。


ひどいことをたくさん言ったけど、それが話のほとんどを占めていたかというと、そうじゃない。

どうやってはるを好きになったのか、どんなところが気に入っているのか、どれほどわたしがはるを好きか、大袈裟に包むことも過小に見せることもせずに、裸のままで伝えた。


ぜんぶを通してみたら、後者の方が多いくらいだ。


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