水性のピリオド.


「おれ、先輩のこと不安にさせましたか?」


「たくさん安心させてくれたよ」


弱くて脆い心をたくさん守ってくれた、庇ってくれた。

傷ついたときは、そっと隣に寄り添っていてくれた。


「おれの気持ちは重いですか」


「たまにね。だけど、心地良い重みだよ」


同じだけのものを返せないことが、たまに歯痒かった。

わたしが日々積み重ねてためて集めて膨らませてようやく追いつくくらいの気持ちをはるは持っていた。

小分けにしてくれたらぜんぶ拾えたかもしれないのに、あまりにも大きいからいくつかは取りこぼしてしまった。


「おれは先輩にふさわしくないですか」


「ううん。逆だね。わたしがはるにふさわしくないの」


こういうのはよくない。

堂々巡りがはじまって、止まらなくなるから。

それをはるもわかっているのか、何か言いたげに口を開きかけて、一言も発せずに閉ざした。


「おれが いま あなたを好きなことは迷惑ですか」


それは、きっと今この瞬間のことを言っている。

瞬きひとつのあいだに移ろってしまう、決して手で掴むことのできない いま のこと。


「迷惑じゃないよ」


「じゃあ、苦しい?」


「そうだね、酸欠になりそう。だけどそんなのは、待ち合わせ場所が階段だったころからずっとだよ」


想うこと、想われること、両方苦しい。

たまに息が出来なくなるほど苦しい。

だけど、それは真綿でゆっくりと首を締めていって、そのうち必ず解けてしまうから。

苦しいけど、痛くはない。


「おれはこれからも先輩を好きでいていいの?」


「それは……できるなら、ゆっくりでいいから薄くなっていってほしいかな」


今日、この日を最骨頂として。

もう二度と上回ることがないのなら、速度ははるに任せるよ。


「先輩の好きは、これからどうなるんですか」


返答によっては、まだ望みがあると勘違いをさせてしまう。

嘘は吐かないと決めたのに、ひとつくらいはいいんじゃない、とけしかけるわたしもいる。


「もう、昨日に置いてきた」


本当は、メールを送信した瞬間に解き放った。

だから、昨日じゃなくて今日なんだけど、それを知ったら一日中はるに離してもらえそうにない。


ほんのちょっとの誤差の話だから。

これは、嘘に含まれないよね。


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