水性のピリオド.
しあわせのピリオド





「かっこいいね」


外では中途半端な袖丈を、学校のなかではどちらか選ばないといけないのが憂鬱だった。

けど、そんな理由で休むのは何だか勿体ない。

一昨日は冬服、昨日は夏服、今日は冬服。

昨日は午後になった途端に冷え込んで、半袖を選んだことを後悔したから今日は長袖にしたのに、大失敗。

教室を出るときは羽織っていないといけないブレザーを小脇に抱えて帰ろうとしていたとき、階段の踊り場で足を止めた。


ひらっと階段の手すりを軽やかに跨いで駆けてきた男の子。

わたしを見つけて、ぴたっと動きを止めた。


無表情で見つめるわたしとは対照的に、男の子の頬が火照っていく。

階段上の男の子の見上げていると、その肩からずるりとカバンの紐が落ちて、開いたファスナーの隙間から飴玉が転がり落ちてくる。


ひとつ、ふたつ、みっつ。

きいろ、あか、みずいろ。


ぜんぶ下まで転がってきて、わたしの足元で止まった。


慌ててカバンを引っ掴んでおりてくる男の子をよそに、わたしはしゃがみこんで飴玉を拾う。


「あ、あの」


頭のてっぺんに声が落ちてくる。

低すぎず、平坦すぎず、聞きやすい声だ。


右手にのせた飴玉を差し出すけど、受け取ろうとしない。


「さっき、なんて……」


さっき?

……ああ。

きみがヒーローみたいに登場したときの、わたしのセリフか。


「かっこよかったよ。マントとかつけてたら、満点だった」


「あああ……やっぱり、見られてた」


赤い顔をさらに濃く染め上げて、わたしの前にしゃがむ。

そうして頭を抱えると、うー、とか、あー、とかボソボソ言い始めた。


なんだろう、この状況。

ふたりして階段下で座り込んで、ひとりは頭を抱えているし、ひとりは飴玉をのせた行き場のない手を宙に置き去りにしてる。


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