魔法使いになりたいか
第2章

§1

自分は魂の指導者だと名乗る猫、導師につれられて、俺の修行が始まった。

目指すは魔法使いのなかの魔法使い、大魔王。

やっぱり目指すならトップを目指さなければ、何事もやる意味がない。

猫の導師のお世話は俺がやっている。

うちにお招きして、食事の用意からトイレ、ブラッシングもする。

修行させてもらうのだから、これくらいは当たり前だ。

導師は外猫だから、すっごく嫌がるけど、たまにはお風呂にも入ってもらう。

だけど、その分爪切りはしなくてすむ。

そこは助かった。

本日の修行テーマは『魔道への基礎講座~基本の材料とその扱い方~』

野外実習がメインだというから、気合いが入る。

「私は魂の指導者」

「はい」

「本日の修行を始める。私についてこい!」

書店のレジ台からぴょんと飛び降りた導師の後を、小走りで追いかけていく。

どんどん走っていくうちに、閑散としたアーケード街を抜け、路地裏の住宅街に迷い込んだ。

修行のために、今日は店を閉めてある。

どうせ客もいない。

導師は軽快な足取りで、道路の隅っこを走っている。

それを見失わないようについて走ってるけど、困るのは突然排水溝の溝に飛び込んだり、他の人の家の庭を横切ろうとすることだ。

「ねぇ導師、そっちには行けないよ」

導師は尻尾をピンと張ったまま、くるりとふりかえった。

「めんどくさい奴だな。目的地は向こうの河原だ。早く来い」

導師はコンクリートの壁を飛び降りて、よそんちの庭に入り込むと、その先の生け垣を抜けて走り去っていった。

まぁ確かに、そこを通った方が直線ルートで行けるから、目的地の河原までは近道なんだろうけど。

さすがに人間の俺が、そんなことをしたら怒られるから、きちんとしたルートを通って、走るのもやめて、普通に歩く。

猫には許されても、人間には許されない道。

そんなことは、山ほどある。

舗装されている道路なら、ここは勝手に歩いてもいいっていう約束。

だから俺は、歩くことを許された道を選んで歩く。

人気のないそんな道をくねくね歩いていると、目的地が分かってないと、すぐに迷いそうになる。

方向を見失うと、へんな所に出ちゃう。

そんな時には、どうやって目的地にたどり着けばいいんだろう。

ぐるぐると歩いているうちに、住宅街の左手に土手が見えた。

コンクリートで固められた護岸壁。

これはうちの近所に流れる、一番大きな川だ。

そこにあった階段を駆け上る。

目の前には、ゆっくりと流れる川と、その両岸に整備された、ただただ広い草原と青い空、吹き抜ける風が気持ちいい。

よかった、たどり着いた。

しかし、たどり着いたはいいけれど、こんなところで猫の導師一匹を見つけるなんて、どうすればいいんだ。

対岸では草野球チームの打った金属バットの音が、空高く響いている。

土手沿いの道には、自転車とマラソンランナー。

部分的に整備されていない草むらに、一本だけぽつりと大きな木が生えていて、とりあえずそこに向かって歩いてみる。

他に、目印らしきものはない。

膝下くらいにまで伸びた草を、踏みしめて歩く。

たぶんここぐらいしか、猫が身を潜めている場所はない。

「遅いじゃないか」

俺が踏み込んだそのすぐ左手の足元に、導師はうずくまっていた。

「わ! そこにいたの?」

「迎えに来てやったんだ」

「そっか、ありがと」

俺が見つけなくても、見つけてくれる人は、見つけてくれる。

俺がそこに来さえすれば、ちゃんと見つけてくれようとしている人には、見つけてもらえる。

なんだかちょっとうれしくなって、俺は導師の隣でしゃがんでみた。
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