魔法使いになりたいか

§2

「あら、心配してくれてるの?」

「そんなこと、あるわけねーだろ」

「あれ、彼氏じゃないから」

尚子は笑って背中を向ける。

助かった。

居間のテレビをつけて、スマホをいじり始めた。

「私の恋愛指南、結構評判いいのよ」

有名人との熱愛報道も絶えない、絶賛独身謳歌中の尚子、こんな奴に教えを請うなんて、世も末だと心底思う。

口に出しては言えないけど。

次の日、本当に菜々子ちゃんは来なかった。

導師と二人、庭先で、俺には理解出来ない不思議な問答のやりとりをして、本日の修行は終了。

ぼんやりと店のレジ台に座っていて、時計を見て気がついた。

あぁ、本当にもう、菜々子ちゃんは来ないんだってことに。

いつも服装だけはやたら立派な北沢くんが、ランドセルを背負ったまま、店に飛び込んで来た。

「こんにちはー。今日もお客さんいませんねー」

彼はまっすぐに、居間へ上がり込む。

「あれ? あいつは?」

のれんの奥から顔だけを出して、北沢くんはきょろきょろと店の中を見渡した。

「もう、ここには来ないって」

彼はするするとランドセルを下ろして、俺の隣にストンと座った。

「は? なんで? あいつが勉強教えてくれっていうから、嫌々つき合ってただけなんですよ。なのになんだよ。僕だって、こう見えて結構忙しいのに、あいつにばっかつき合ってらんないのに、ひどくないですか? せっかく来てやったのに、いないって」

俺は北沢くんを見る。

北沢くんは、自分から勝手にしゃべるタイプ。

「そりゃね、同じ学校には行ってますけど、学年違うからめったに会わないんですよ、校内で。だけどここに来たら、あいつ、絶対いるじゃないですか、ここに来たら、普通に会えるし、しゃべれるし、ここに来たら、一緒にお菓子食べて、話ししながら、なんかこう……、ね、ここに来たら、普通、いるもんでしょ」

北沢くんは、自分で勝手にしゃべるタイプ。

「だってさ、ここ以外の、どこで顔見て話すチャンスあります? 学校とかだと、絶対誰か見てるし、そんなの、話しかけられないじゃないですか。あいつだって、基本知らんぷりしてるし。ここだと、普通に普通で話せるから、だからここに来てるっていうか、勉強教えてやってる立場ですけどね」

北沢くんが、ため息をついてうつむいた。

おしゃべりの一時的ストップ。

「昨日は、ずっと泣いてたんだって」

その言葉に彼は、本当に驚いたような、傷ついたような顔をする。

「知りませんよ、僕は悪くないですからね」

黙ったまま前を向いていると、彼はまた勢いよく昨日の出来事をしゃべり始めた。

「だって、僕は大手の進学塾に行ってるし、そこで一番頭のいいクラスにいるんですよ。あいつの解いてる問題は、だって小四でしょ? 僕に出来ないワケがないじゃないですか。それに、背伸びして公立中高一貫校の入試問題なんて、早すぎて出来ないの、当たり前だと思いません? そんなことで怒り出して、泣かれても、僕だって知りませんよ」

俺は無言で、北沢くんの方に顔を向ける。

「だって、そうでしょ? あいつんちが母子家庭で貧乏なのも、僕のせいじゃないし、うちの両親が金持ちで弁護士なのも、僕のせいじゃない」

「今、なんて言った?」

「だから、僕は悪くないし、あいつが勝手に泣き出しただけなんです!」

母子家庭ってことは、菜々子ちゃんの父親は? 
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