さよなら、センセイ


ヒロが恵にさよならを告げてから一週間が経った。
ヒロは休みに入っていて、学校で会うことはなかった。
恵は悩んで悩んで、眠れない日々が続いていた。


だが。決めなくてはならない。


恵は、返事をする為に校長室を訪ねた。

「よろしいんですね?若月先生」
「…はい。
もう、決めましたから」

恵の心に迷いがないと言えば嘘になる。
それでも、1つの答えを出した。

「ヒロ…丹下くんとは?」
校長は声を潜め、探るように尋ねてくる。

「ご心配いただき、ありがとうございます。
大丈夫です」

「そうですか。いや、彼も進学が決まったと聞いています。どうなることがと思いましたが…よかった。
どうか、これからも、お二人の気持ちを大切にして下さい」

「ありがとうございます、校長先生」

恵は深々と頭を下げた。


2人の気持ちは、もう一緒じゃない。
私は仕事を選んだ。
ヒロは別れを選んだ。

締め付けられるような胸の痛みに耐えながら、恵は校長室を出る。



職員室に向かう廊下の窓から、正門が見える。
西日の当たる正門へと続く通路には、生徒達の姿があった。
部活に向かう者、帰宅する者、放課後の使い方はまちまちだが、皆、一様に若さに満ちあふれ、輝きを放っている。

そんな青春時代に携わっていられること。
それは、やり甲斐のある仕事。

恵にとって、たった1人の、最高の男を失ってまで、追いかける仕事。


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