さよなら、センセイ
「ごめん。それは、できないんだ。
私、ほら、佐久間先生の代替で、佐久間先生4月から復帰されるから」

「えーっ!じゃ、先生、転勤⁉︎」

一同が、ガッカリした表情で恵を見る。
恵は、困った表情で言葉を濁す。すると、綺羅があっと声をあげた。

「あ、もしかして、めぐみ先生、カレシと結婚する、とか⁉︎」

綺羅の言葉に一同は興味津々という顔つきになって、いっそう恵をじっと見る。


そんな彼らから一歩離れたところで、ヒロが胸の前で腕を組み、恵を真っ直ぐに見ていた。

恵は、その視線に気づいた。
にらみつけるような、怖さすら覚える険しい視線。


「違うわ。

転勤するの」


やっと、面と向かって言えた。
ヒロの表情は、変わらない。恵の決意は、彼の想定どおりだったに違いない。


「皆と一緒。
私も、この学校を去って新天地で頑張るから。

大学は四年。短大なら二年。
あっと言う間だよ。
だから、残りの学生生活、悔いのないように思いっきり楽しんで。
勉強もして。
もちろん将来の事も考えて。
時間なんていくらあっても足りないよ。

素敵な大人になってね」

「先生…」

恵は、全員を見渡し、そして、視線をヒロで止める。

「合格、おめでとう。

輝かしい未来を信じてる」

ヒロに最後に伝えたかった言葉。
全部、言えた。

一筋だけ、ポロリと涙がこぼれた。恵は慌ててそれを手で拭う。


「もぉ〜先生、クサイ台詞。でも、うれしい」

生徒達は、恵が感動して涙していると思っている。


「さ、皆、お好み焼き屋さんに行くんでしょ?
私、まだ残務があるから、一旦職員室戻ります。
受験から解放されたとはいえ、羽目を外しすぎちゃ、ダメよ」

「センセイ、後から来てくださいよ〜」

「間に合わないと思うなぁ。
あ、立花さん、部室の鍵だけ、後で忘れずに返却お願いね」

恵はヒラヒラと手を振って、部室を後にする。

< 110 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop