さよなら、センセイ
「丹下せんぱーい、あのぅ、タイム、とってもらっていいですかぁ?」
そんな中、2年の女子がゾロゾロとヒロの周りに集まる。
いきなりの甘ったるい声に恵が引いていると、近くにいた男子が教えてくれた。
「アイツらは丹下につられて入部した、丹下の追っかけです。うちの女子は、ほとんどが丹下目当てですから、気にしないで下さい」
「へぇ、部長はすごいのね」
なるほど確かに女子は、記録云々より水に浸かって優雅に泳いでいる印象だった。まさか、ヒロ目当てだとは思ってなかったが。
ヒロにはやはり同年代の女の子がよく似合ってる。女の子に囲まれているヒロを見てつくづく思う。
ーーやっぱりヒロの隣には、若さでキラキラ弾けるような女の子が似合ってる。
だから、別れを選んだ私の選択は間違ってなかった。
「じゃ、今日はここまで」
ヒロが時計を見て声を上げる。
部員達はプールから上がり、恵に挨拶をして、プールから出て行った。
恵は1人になると、今一度プールに飛び込んだ。泳ぎはしない。ただ潜水をして…泣いた。
ヒロがあんなに近くにいて、平気なフリをしていたけど、もう、我慢の限界だった。ひとしきり泣いてから今度はがむしゃらに泳いだ。
私は、高校教師。彼は生徒。
そうやって、一般的な倫理観のもと、彼を突き放したのは私。
だから、泣くな。
悲しい気持ちなんか、抱くな。
私は仕事を選んだんだ。