さよなら、センセイ


翌日。



「私が、我が校の生徒と個人的にお付き合いをしているという噂が流れているようですが。
そういった事実は、全くございません」

全校集会の壇上で恵はキッパリと、言った。

「ですが、そういった誤解を招いたことは、反省しております。今後は、このようなことの無いように注意いたします。
生徒の皆さん、教職員の皆様の混乱を招き、申し訳ございませんでした」

恵はそう言って深々と頭を下げた。
これで一連の噂に終止符が打たれた。

それから恵の部屋にヒロが現れることはなかった。
ヒロは変わらず女子に人気があり、時には取り巻きの女子と親しげに話しをしたり、一緒に下校する姿も見られた。

一方の恵は、持ち前の一生懸命さと真面目なところが認められ、彼女の授業は分かりやすく楽しい、と生徒達に好評だ。

二人の様子に変わったところはなかった。
おかげで二人を疑うのは山中1人にとどまり、ウワサも立ち消えていった。

山中は、何度か恵の後をつけたり、ヒロの家の周りを張り込んだりして現場を押さえようとしていたが全て無駄足に終わった。


2人は会わない代わりに毎日メールや電話で言葉を交わしていた。1日にほんの数分だけでも2人だけの時間を大切にして、愛を静かに育んでいた。

密やかに、けれども強い愛を。



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