お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「さ、かわいいお嬢さん、お手をどうぞ」

「はい! ありがとうございます」

軽やかに返事をし、ふたりで部屋を出ると、廊下からものすごい速さでクロエがやって来た。

「やっと見つけた! お兄様! 一体どこに行ってらしたの?」

そして、エスコートを受けているロザリーをぎろりとにらみつけている。

「どうしてお兄様とふたりきりでいるの、あなたは!」

「ふ、ふたりきりじゃないですーっ」

「ふたりとも、ここをどこだと思っているんだい。そんな大声を出しては淑女として失格だよ」

廊下一帯に響き渡りそうな声を出すクロエとロザリーに、人差し指を立てシーと片目をつぶる。それだけで、ブラコンのクロエは押し黙り、空いているほうの腕にしがみついた。

「もうっ、お兄様、早く行きましょう。一緒に踊る約束したじゃありませんの」

「兄と踊ってなにが楽しいんだい、クロエ」

「他の殿方と踊るより百倍楽しいですわ。さあ!」

ぐいぐいと引っ張っていくクロエに着いていく形で、ロザリーとケネスは広間に戻った。
大広間は出たときと変わらず、優雅な音楽が流れ、人々はダンスに興じたり、会話を楽しんだりと、思い思いに過ごしていた。

「先に一曲クロエと踊って来るよ。君はここで待っていて。言っておくけど、ダンスの約束をしたのは俺が先だからね。他の男の誘いは断っておいてよ?」

ロザリーを軽食のあるところに連れてくると、ケネスがウィンクをしてクロエに引っ張られていった。
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