お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


「まあ詳しい話はまた今度だな。アイザック王子、そろそろ会場に戻りませんと」

イートン伯爵の言葉を皮切りに、ザックは正気に返った。

「ああ、そうですね」

「ケネス、ロザリー嬢のことは頼む」

「ええ、父上。分かってます」

イートン伯爵が部屋を出て、ザックも名残惜しく感じながらもそれに続く。と、扉を閉める前に彼はケネスを振り返った。

「……ケネス。前は怒鳴って悪かった」

ケネスは笑顔でその言葉を受け取ると、まるでこれは独り言だとでも言うようにそっぽを向いてつぶやいた。

「第二王子には果たさねばならない責任もあるのだろうけどね。俺にとって、大事なのは俺の弟のアイザックなんだ。アイザックを守るためなら、君の言うことを聞けないこともあるよ」

兄弟のように育った日々を、ケネスは今も忘れていない。王子だとかそんな後から知った事実は、ケネスにとっては昔からどうでもいいのだ。

「……ありがとう」

ザックは素直に感謝をつげ、部屋を出ていく。
ふたりになったケネスは、ロザリーにハンカチを差し出した。

「さ、君が泣き止んだら、戻ろう。ふたりきりで個室にいて、誤解されてはよくないからね。広間に戻ったら、俺とも踊ってくれるんだろう?」

「ケネス様とですか?」

「そうだよ。これでも楽しみにしていたんだからね。目の前で踊って、あいつに悔しい顔をさせてやるのを」

「あはは、そっちですか」

ロザリーが笑顔になったのを確認して、ケネスはゆったりと手を上げる。
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