お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

やがて風の噂で、カイラ妃が男の子を産んだと聞いた。

マデリンの中に殺意が芽生え、ひそかに離宮へ人を送った。
しかし実際には離宮には誰もいなかった。どうやらカイラは、陛下の命によりイートン伯爵領へと隠されたらしいのだ。マデリンには絶対に手出しができない場所へ。

マデリンは、夫を愛しているわけではない。
だが自分は第一夫人で、大事にされるべき存在だとは思っている。
王太子も産んだ自分がないがしろにされるのは許せない。
愛情とは違う執着が、彼女の中に生まれた瞬間だ。

いつしかなくなってしまったふたりの夜の睦言を、取り戻そうと躍起になった。
カイラを呼び戻せば、なにをするか分からないと言外に告げながら、女としての自分を放っておくのは夫の怠慢だと責めたて、彼を揺さぶった。

あまり言葉多く語ることのない王は、しかして意思の力だけは固かった。
膠着状態が数年続き、だがマデリンは妊娠した。
王には、記憶のない朝が何度かあった。そのとき、隣には必ず正妃がいたのだ。

王は思い悩んだようだが、正妃の妊娠に疑いをはさむことはできない。
そして思い立ったように、カイラとその息子を呼び戻した。

どういうつもりだったのか、マデリンには分からないが、彼女が戻ってくるとマデリンの興味は色事よりも復讐に向かう。

やがてカイラは心を壊し、国王との不仲も囁かれ始めた。
彼女が離宮に引きこもるようになって、ようやくマデリンは心の安息を手に入れたのだ。

……王太子であるバイロンが、病に倒れるまでは。

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