お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「でしたら、この扇に誓いますね。私はザック様のお帰りをずっと待っています。ザック様のことを、……ずっと好きです」

ザックからもらった扇を見せて微笑むと、ザックは微笑を浮かべ彼女の耳元にキスをする。

「ああ……いっそ連れていければいいのに」

頭が爆発するようなことを平気で言われ、ロザリーは足もとがおぼつかないような気持ちになる。
でも頭のどこかでちゃんと分かっているのだ。ロザリーが王都に行ったところで、ザックの役には立てないことくらい。

「頑張ってきてください。国のためですもの」

寂しさを隠して笑うと、ザックは彼女の頬を優しく撫でる。

「国のためを思って動けるほど愛国心があるわけじゃない。今回戻るのは……君のためだ」

「私……ですか?」

「君が安心して暮らせる国にしたいと思っているだけだ。でなければ、……逃げ続けている」

ロザリーの脳内に一気に血が巡ってくる。
今日の彼の言動は甘すぎないだろうか。胸がドキドキしすぎて、おかしくなってしまいそうだ。
ロザリーは自分を立て直すために、コホンと軽く咳ばらいをする。そして、彼を勇気づける言葉を探した。


「ザック様は私がいなくても国を見捨てたりしません」

「どうしてわかる」

「ザック様を必要としている人がたくさんいるからです。あなたはそういう人たちを見捨てるような人ではないでしょう?」

「……参ったな。寂しいのは俺ばかりか」


彼が零した小さなつぶやきに、ロザリーは胸がえぐられたような気持ちになった。
途端に我慢していた涙が浮かび上がってくる。

「……それはさすがに……ひどいです。私だって……」
< 20 / 249 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop