お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「でしたら、この扇に誓いますね。私はザック様のお帰りをずっと待っています。ザック様のことを、……ずっと好きです」
ザックからもらった扇を見せて微笑むと、ザックは微笑を浮かべ彼女の耳元にキスをする。
「ああ……いっそ連れていければいいのに」
頭が爆発するようなことを平気で言われ、ロザリーは足もとがおぼつかないような気持ちになる。
でも頭のどこかでちゃんと分かっているのだ。ロザリーが王都に行ったところで、ザックの役には立てないことくらい。
「頑張ってきてください。国のためですもの」
寂しさを隠して笑うと、ザックは彼女の頬を優しく撫でる。
「国のためを思って動けるほど愛国心があるわけじゃない。今回戻るのは……君のためだ」
「私……ですか?」
「君が安心して暮らせる国にしたいと思っているだけだ。でなければ、……逃げ続けている」
ロザリーの脳内に一気に血が巡ってくる。
今日の彼の言動は甘すぎないだろうか。胸がドキドキしすぎて、おかしくなってしまいそうだ。
ロザリーは自分を立て直すために、コホンと軽く咳ばらいをする。そして、彼を勇気づける言葉を探した。
「ザック様は私がいなくても国を見捨てたりしません」
「どうしてわかる」
「ザック様を必要としている人がたくさんいるからです。あなたはそういう人たちを見捨てるような人ではないでしょう?」
「……参ったな。寂しいのは俺ばかりか」
彼が零した小さなつぶやきに、ロザリーは胸がえぐられたような気持ちになった。
途端に我慢していた涙が浮かび上がってくる。
「……それはさすがに……ひどいです。私だって……」