お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
寂しいのに……、と思いながら一生懸命涙を止めようとしていると、ザックが焦ったように目の前で手をアワアワと動かす。
「な、泣くなよ。言い方が悪かった。俺が寂しいから。ロザリーが平気そうに見えて、つい悔しくなっただけだ」
「平気なんかじゃないです」
「そう見えたんだって! ……でも。ごめん。……泣くほど寂しがってくれるのを嬉しいと思ってる。別れの寂しさを一瞬上回るくらいに」
あまりにも素直な返答に、ロザリーは笑ってしまいそうになった。
けれど、一度流れ出した涙はそう簡単には止まらない。元々、空元気だったのだからなおさらだ。
「少し泣かせてください」
ロザリーは自分からザックにしがみついた。彼の香りも、声も、肌の温かさもすべて覚えておきたくて。
ザックはそろそろと背中に手をまわし、やがて力を込めて抱きしめた。
「可愛いな、くそ」
彼の服を涙で濡らしてしまうことを申し訳なく思いつつも、ロザリーはザックの白檀の香りを思い切り吸い込んだ。
次に彼に会うときまで、絶対にこの香りを忘れないように。