お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

街の人には秘密だが、毎日のように切り株亭にやって来る貴族のザックは実はこの国の第二王子なのだ。本名はアイザック・ボールドウィン。
母親が侍女上がりで、王子ではあるものの、なかなかに虐げられた暮らしをしてきたらしい。
王太子である第一王子が病気がちなため、次期国王と目されていて、それゆえに命を狙われることもあるらしく、彼は現在、ここへ逃げてきているのだ。

ロザリーは迷う。
ザックを探す人間はおそらく彼の敵だ。だとすれば、どうにかして誤魔化して帰ってもらわなければ。

ロザリーが内心で意気込んでいると、金髪の彼のほうがさらりと前髪をかきあげながら言った。

「君はにおいで人を探せると聞いた。だから彼の私物を持ってきたんだ。かれこれ一年ほど経っているので香りが残っているかどうかは怪しいんだが」

差し出されたのは腕輪だ。ザックの瞳の色を思わせる緑色の宝石がはめ込まれたもので、鷹のレリーフが彫られている。
軽く鼻を近づけて嗅いでみると、白檀がうっすら香った。たしかにザックのものだと思う。

だけど、どうしてこの人たちはザックの私物を持っているのか。
敵か? 味方か?
やっぱり判断がつかない。
それにひとつ、気になることもあった。
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