夜をこえて朝を想う
こんな梓でも、“軽症”らしく

確かに、失恋なのだ。誰もが経験する。

梓の場合は、初恋と、アイドルと、突然と、パニックと何か色々…重なって心にきちゃっただけで…

平たく言うと、失恋だった。

波はあるものの少しづつ、回復し、人格も取り戻して行った。

油断。

油断だったと思う。

何となく嫌な予感。

梓の母親から、連絡が取れないと電話があった。

直ぐに管理会社に電話して、梓の家を開けて貰った。

遅かった。

……そこに、白い顔で横たわる梓を見て思った。

戦慄が走る。

そこから、どうしたのか分からない。

けど、触れると暖かい梓に、気づけば救急車に乗って病院に着いていた。

梓の母親にも連絡をした。

栄養失調。そこに、薬を多く飲んだもので…

酩酊したような状態。

危なかった…と…

回復した頃が危ない。そう医師から説明があった。

「間違えただけ。」

心配する母親に梓はそう言った。

あの時の梓を知らない母親は、渋々ながら納得した。

母親の元へ帰るように、何度も説得し

梓は実家へ戻ったが、ずっと母親の元にいるのもストレスだと1年経たずに戻って来た。

そんな梓も…次に処方された薬が効いたのか時間が薬になったのか…

次第に完治したのかと思う程になった。

再就職もした。

今度の職場は、人にも恵まれたようで

梓は楽しそうだった。

まるで、出会ってすぐの、私を慰めてくれた頃の梓に戻ったみたいに。

3年以上…それくらい経っていたと思う。

吉良くんと別れてから。

やがて、私も彼女の近くの会社へ転職した。

デザインの仕事。

本当は建築関係の、インテリアを含む、空間デザインをしてみたかったけど…

梓の近く。それには、換えがたかった。

そのうち、何回か梓を通じて会う、梓の会社の浜川さんとも連絡を取るようになった。

彼は、とても穏やかな人で、梓の事を分かった上でサポートしてくれる。安心する。そんな人がいて。

恐らく…梓も、浜川さんも…恋愛対象なのだと思う。

今度こそ…そうは…思うのだけど。

こればかりは、梓が自分で学習しないと。

今回は、前回油断した、医師が“危ない”と言った時期も無事に過ぎた。

完治。そう思った頃、再び梓と連絡が取れなくなった。

実家には連絡がある。会社にも来てる。

私だけ。

私だけだ。

再び、あの日の白い顔の梓が浮かび、家へ駆けつけたが、留守だった。

あの時の情景は何度思い出しても

戦慄が走る。

身体が震える。

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