夜をこえて朝を想う
「嘘…その…特定の彼女?」

めちゃめちゃモテてた。

今は、もっとモテてるはず。

「俺、無理なんだよ。特定じゃない人。だから…特定も、関係持ったのも、梓で最後。」

「…それって…」

「うん、引きずってる。今も。梓を。」

「嘘…でしょ?」

「…本当だ。ここで、嘘ついても仕方ないだろ。」

「…馬鹿。…馬鹿だなぁ。梓。」

目の前が滲む。

我慢したけど、無理だった。

吉良くんがそっとハンカチを渡してくれた。

「説明して?」

「うん…吉良くんに振られてから…パニックで…その…ずーっと泣いてた。泣き止んだと思ったら、今度は焦点の合わない目で何日も座ってたり…一時的なものじゃなくて…結局、仕事も辞めて実家に帰ったの」

彼はそんなに驚く事もなく頷いた。

「初めての彼氏だったの。吉良くん。しかも…夢中になった人。少しづつ、時が解決してくれて社会復帰もしたんだけど…また…何かがきっかけで今度は眠れなくなって…

…薬を大量に飲んでね…病院に運ばれた。」

思い出しただけで、また、背筋が寒くなる。

あの…光景だけは。

「間違えただけだって。梓は。…最近元に戻ってたんだけど…連絡が取れない日が続いてる。会社には行ってるみたい。…でも私を遮断するということは…」

ハンカチで涙を抑え、吉良くんを見た。

「どうしてこんな事になったの?3年…も。」

どちらも、引きずって動けなくなるほどの何が?

「俺を信じられなかった梓と、それを分かってやれなかった俺と…ほんの少し、間違いがあっただけだ。」

「…好きなの?梓を。今も。」

「いや、好きだった。ちゃんと。

それを…伝えて…終わらせたい。梓の中の俺も、俺の中の梓も。

そして…

それは俺の役目だと思う。」

「協力する。」

「ありがとう。今は梓どこにいんの?」

「N町。案内しようか?」

「週末にでも。いい?それまでに連絡あったら教えて。」

「うん。…今日、話聞けて良かった。ありがとう。」

「…梓…大丈夫だよな?」

「うん。会社の人に連絡貰ってるんだ。来てるかどうかだけ。」

「ありがとう。」

吉良くんは思ったより

というか、見た目より

何倍も素敵な…人だった。

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