夜をこえて朝を想う
第9話

side M

大学を卒業して、就職した会社。

単純な私は、また“社会人”という響きに、やられていた。

スーツ姿は、何割増しにか格好良く見えたし、右も左も分からない、学生上がりの新卒にとって

物凄い大人に見えた。

デートだって、スマートに奢ってくれたし、休日のスーツとは違う私服姿にも…ときめいた。

「好きだよ。」

そう言った彼に、疑うことなく

ハマっていった。

元々、押しに弱い性格も災いしたのだろう。

文句より、先に涙が出てくる情けない性格も。

だけど…

結婚するらしい。そう聞いた。

同姓同名の人が、社内にいるのかと思った。

それくらい疑っていなかった。

同姓同名の人は…いなかった。

ひょっとして、私…プロポーズされてたのかな?

誰かが貰ったその招待状を見るまで…。

そう思う程にバカだった。

そこからは、どん底。

というか、悲惨だった。

“大人”そう思ってた人は、人格が変わったかのように…

「彼女とは別れる。」

いつか、聞いたようなセリフ。

招待状を出して、何を言っているのか。

「恋愛と結婚は違う。」

「彼女に恋愛感情はない。」

「愛しているのは、湊だけ。」

昼ドラの、世界に入ったのかと思った。

最後に

「結婚しても、関係を続けたい。」

そう言った。それが、本音だろう。

そして、彼女が、本命なのだろう。

会社も、変な辞め方になったけど、そうするしかなかった。逃げるように辞めた。

新入社員が病んだとでも思われたくらいだろう。

引っ越しもした。

路線も別の会社に就職した。

そこでも、既婚者とか、彼女持ちとか

きっと、私が2番目顔なのか、そんな風に見えるのか。

前以て「俺、彼女いるけどいいよね?」なんて、前置きする男もいた。

“好き”

“付き合って”

“愛してる”

“結婚しよう。”

“君だけ”

こんな言葉は、簡単に言えるのだ。

下心。…それを為すための手段として。

何が悪いのか分からない。私の。

簡単な女だからだろうか。

断れないことを悟られるのだろうか。

きっと、私が引き寄せている。

そんな、男ばかりを。

そして、その次の会社もそんな原因で辞めた。

押しに弱い、断れない性格。

でも、受け入れるわけにはいかない。

傷つく人がいる限り。

逃げるしかなかった。

梓も心配で今の会社に2回目の転職をした。

梓や吉良くんを見ていると

本物の愛は、在るところにはあるのだな。

そう、思った。

その愛が…私の所にはには無いだけで。

いつか、自然に出逢えるのだろうか。

本物の、優しさと…愛に。

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