夜をこえて朝を想う
「今日は泊まる?」

“今日は”大丈夫なのだろう。

「明日仕事だよ?」

「職場、近いんだろ…じゃあ…」

「誰かに…見られるよ。」

「堂々としてれば…」

慣れたもんだね。

そうか、堂々としてれば逆に…

そう言って、コーヒー1杯と飲み終わらないうちに…

さっきの玄関での続き…

さっさと…したいよね。

可笑しい。…悲しくて…可笑しい。

器用に服を脱がし、下着のホックも片手で一瞬で外される。

恥ずかしい。

この人に太刀打ちできるほど、私は慣れてはいない。

なのに、平気な振りをしなければならない。

「嫌だわ、部長…私…そんなつもりじゃ。」

「ここまでついて来といて、それはないだろう?」

茶化すように、でも…ちょっと意地悪でそう言った。

冗談に乗ったのか、それとも、本心か。

クスクスと笑う。

「何、そんな感じのが燃えるの?」

「もう…」

そう言って、彼の胸を押す。

少し押したくらいでは、びくともしない…たくましい彼の…胸を。

逃がさない。

その言葉を意味するのか、彼が私のあちこちに、小さな痕を残していく。

わざと。

身を捩るようにそれを避けて

彼の首元…敢えて服を着ても見える部分に口づけ、軽く吸う。

「ストップ。…俺は…いい。」

予想通り、私の身体を引き離すとそう言った。

「冗談よ。」

そう言って笑う。

…見られて困る人が、いる。

機嫌を取るように…弛く頬をつねる彼に

また、笑った。

そうだ、拗ねていい関係でも、求めていい関係でもない。

「寒い。私だけ…脱がして…温めてくれないの?」

終わらせたい。早く。

虚しいだけの、この関係を。

「…ベッド行こうか。」

そう言う彼の頚に、ぎゅっと腕を回す。

そのまま抱えられてベッドへと…なだれ込んだ。

「…何?」

「んー…好きだよ。湊。」

ああ、言えちゃうんだね。

そらそうか、ベッドの上…だもんね。

「お上手ですわ、部長。」

茶化す私に、容赦なく…

だけど、優しく触れていく。

そんな彼に、抱きついた。

今だけ。この間だけは…忘れられる。

出そうになる涙をこらえる。

見えないように、抱きついたのに

身体を離され

それに気づいた彼が、目尻に口づける。

「…綺麗だな。」

そう言った彼の腰に手を這わせる。

「悪い人だなぁ…。」

「よく、言われます。」

「はは!」

他にもいるのだろうか。

…本命でない“彼女”が私以外にも。

そして、本命ですらない私が、本命ですらない人に…嫉妬する。

「黙れ…もう。」

彼が、そう言って私の口を塞ぐ。

そこからは、何も考えずに

考えられなくなるほどに、彼に酔わされる。

何度も押し寄せる波にのまれる。

それは、心なのか、身体なのか…

わからなかった。

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