夜をこえて朝を想う
それを聞いてから、サークルに顔を出せないでいた。

今まで通り、いや、それ以上に斉藤さんからは連絡がある。

返信もしなかったし、電話も出なかった。

私が引いた事によって、斉藤さんは益々私に執着したのかもしれない。

バイトが終わって、家に帰ると…そこに、彼がいた。

この前…家まで送って貰った事を後悔した。

「何で、無視すんの?」

彼の目には、怒りと、絶望。

そして、疲れた顔。

「ごめんなさい、私…彼女がいるって知らなくて。」

「別れる。恵子とは。」

「そこまでの気持ちが、私にはありません。」

そう言うと、彼は

「諦めない。俺は。」

そう言った。

怖い。

家も知られてしまったし…

だが、予想に反し、そのまま彼は帰って行った。

正直、彼がそのまま帰ってくれて、心底ホッとした。

翌日

大学へ行くと、待ち伏せされていた。

「…恵子さん…。」

「何の話か、分かるよね?」

「ごめんなさい、私…知らなくて。」

「誰が信じると思う?私と彼の関係なんて誰でも知ってるけど?…それに、二股かけてるよね?」

「はい?」

「大淵くんと、手つないでたの、見たんだから。」

「…それは…誤解…」

「ビッチ!」

まるで安っぽい海外ドラマみたいなセリフを吐かれ

そこから数時間罵倒された。

そんな日が何日も続いた。

「サークルは辞めます。」

そう言ったけれど、

「元々、入れてないわよ、あんたなんて。斉藤君は騙されてるのよ。大して美人でもないのよね、どこにそんな自信があるわけ?大学デビューのつもり?」

よく分からない。

けど、私が悪いのだということだけは理解した。

大学で、同じクラスになった梓が

唯一、私に寄り添ってくれた。

親身に。

有ること無いこと、あちこちに吹聴され

心身ともに疲れ果てた。

「私のサークル、おいでよ。」

写真が好きな梓が入っているサークルは穏やかで

落ち着けた。

でも、そこにも恵子さんがやって来て、

有ること無いこと言って帰っていった。

「何、あの人。暇なの?」

梓がみんなの前で一蹴してくれて

何も起こらなかった。

あっちのサークルはその後、解散したと聞いた。

斉藤さんからは、何度も連絡があったけれど

応じる事はなかった。

何度も待ち伏せされ、その度に逃げるように避けた。

キャンパスで会った時に、腕を掴まれたが

震えて嫌がる私に

「ごめん。」

そう言うと、それ以上の事はなくなった。

ようやく、落ち着けたのは彼らが卒業してからだった。

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