元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!【番外編】
 
「……すごい方です、ツグミ殿は。女性の身でありながらヨーロッパの中枢部で政治を仕切ろうというのですから。それも、自分の師であるメッテルニヒ宰相を超えて」

プロケシュ大使は思い出す。まだ鷲の子に王冠を戴かせる夢を見ていた頃。彼女はライヒシュタット公への友情とメッテルニヒ宰相への忠誠との狭間で苦しみながらも、自分の道を貫き通していた。

最近では互いに忙しく、手紙のやりとりを時々するだけの関係になってしまっているが、いつか機会があったら彼女ともっと話してみたいとプロケシュ大使は思う。

やがて、無言のまま食い入るように新聞を読んでいたゲンツが肩を震わせ出した。

「ク……ククク……ッ、ははっ、あはははは!」

「ゲ、ゲンツさん?」

ずっと覇気のなかったゲンツが息を吹き返したように感情を取り戻したことに、プロケシュ大使は目を見開いて驚く。

「ツグミのやつ、本気でメッテルニヒに立てつくつもりみてえだな。ったく、相変わらず生意気な奴だ」

そして楽しそうにひとしきり笑ったあと、ゲンツはソファの背に凭れて天井を仰ぐと大きく息を吐き出した。

「――……そうか、外交官になったか……」

そう呟きゲンツは天井を仰いだまま両目を片手で覆うと、そのまま黙り込んでしまった。

プロケシュ大使は彼に呼びかけようとして、ためらい、やめた。

部屋は再び静まり返る。

鳥のささやかな囀りだけが、この狂おしく切ない沈黙を和らげてくれていた。
 
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