ヴァンパイア†KISS
だが、そのヴァンパイアは人間の血の毒性を知らなかった。

ヴァンパイアの血は太古から続くどんな生物より最も濃い血。

同族間で交配を繰り返し、食用の血ですら同族のものを主食としてきた。

そんなヴァンパイアがあらゆる動物の血肉を喰らい、薬で汚染された植物を喰らう人間の血を吸えば、体内で魔の化学反応と言われるおぞましい血の氾濫が起き、たちまちに死へと誘われる。

死への致死量。

人間の血もその人間が死ぬ一歩手前で喰らうのをやめるなら、人間もヴァンパイアもお互いに死ぬこともない。

そして、その人間はヴァンパイアに変異する。

だが、致死量を超えて血を喰らえば、人間もヴァンパイアも死に至るのだ。

奴は死への致死量も判断できないような小者だった。

人間の血の甘さに酔い、その血に自分が毒されていくとも知らず恍惚とした快感に酔いしれたまま果てた。

(甘い娼婦の匂いに誘われたのだろう……。だが、その代償は大きい)

ウルフガングは味を感じない酒を飲み下すと、ブルースに目線で合図を送り店を出た。



(今日もあの少女は来ただろうか……エマ……)


焼け出され瓦礫と化した広い空き地に、夜の月が煌々と降り注いでいた。

ウルフガングが瓦礫の下に手を入れると、まだ幼い黒猫が主を待っていたかのように飛び出してくる。

「エイダ……今日もエマと会えたか?」



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