ヴァンパイア†KISS
5席ほどある丸テーブルの席では、昼間工場での体力仕事やロンドン市内まで足を伸ばして働いてきた男たちが、憂さ晴らしのように思い思いの酒を酌み交わしている。

「アラニス、今日も見たか?ベンのやつ、また娘を痛めつけて市場で働かせて自分は昼間っから酒をくらっていたぜ」

「ほんとうかよ!娘って言ってもまだ10歳かそこらだろ!?その娘も不憫になぁ。娼婦の母親は変な死に方しちまったしよ」

「ああ、ありゃ5年前か?にしても、おかしな死に方だったよなぁ。オレはヴァンパイア説を押すね!案外あの娘がヴァンパイアかもしれないぜ。あんな綺麗な顔してよ、どんな虐待くらっても涙一つ見せやしない。ありゃ、かわいい顔して魔性の女だぜ。あと5年もすりゃ、ゾクゾクするようないい女になるだろうな」

ウルフガングはカウンターの端から、一人客を装い酒と会話するように自らの存在を消しながら男達の会話を聞いていた。

(人間とは、噂好きなものだな。噂とはほとんどが人の不幸で成り立っている。奴らの食い物は人の不幸……。まぁ、そのお陰でこうして奴らの動きを把握できる。人間とはなんと愚かな生き物なのだ……)

ウルフガングはこの酒場でこうして人間たちの噂や趣向を聞き出し、人間の動きを把握することが日課になっていた。

人間とは一つの噂でどんな動きを起こすかわからない怖ろしい生き物、それがウルフガングの考えだった。

5年前、エイダという娼婦をまだ歳若いヴァンパイアが見初め、刻印を記し自分のものにしようとした。

ヴァンパイアの刻印をキスで刻まれた人間は、10日間他の人間とのキスの快感を失い、他のヴァンパイアに手をつけられることもない。



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