ヴァンパイア†KISS

100年キスして†第4夜†

1898年、3月。

ロンドン郊外・「ヴァンパイア・キス」



「カルロ、そこはエマの肩をこう支えるんだ」

「エマ、君の腕の位置はもっとこうだ」


巨大ダンスホールにヴァンパイアたちの囁きが聞こえてくる。

「いつまで人間の子供にダンスを教えるつもりかしら?」

「ウルフ様のやることにはついていけないな…」


踊りながらウルフガングたちの様子を窺うヴァンパイアたちを尻目に、ウルフガングはこの2週間ほど、二人にワルツを教え続けていた。

いつか二人が素晴らしいワルツを踊る時、それが人間とヴァンパイアの橋渡しになる瞬間だと信じて……。

「ウルフ、やっぱり手本を見せてくれないとよくわからない……」

カルロが口の先を尖らせるように不満を漏らす。

「ウルフ、わたしも見たい!」

エマも瞳を輝かせるようにウルフガングを見上げた。

(エマ……。この無邪気な笑顔が、私にはとても、苦しい。エマはまだ私やここにいる者たちがヴァンパイアだということを知らない。そして、自分の母親を殺したのもヴァンパイアだということを………!)

ウルフガングは天上に吊るされたバラの装飾が施されている煌びやかなミラーボールを見上げると、そっと瞳を閉じた。

数十年前、クローディアとともに幸せにワルツを踊っていた自分の姿が甦る。

あの日の喝采、栄光、未来への光。

そして、踊る幸せ………。

全てはクローディアを奪われたあの日に、暗い闇に葬りさったまま。

(……また、こんな私にも、太陽のようなワルツを踊れるだろうか……?)


ウルフガングは、意を決したようにダンスホールの中央へと歩み出ると、選曲を担当しているブルースのいるミュージックブースに片手を上げて合図を送った。

「し、信じられない!ウルフ様がまたダンスを踊られるなんて……!」
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