ヴァンパイア†KISS
オズワルドはその左目の傷が完全に治癒したのを確認するように触れると、頬を滴り落ちる血をペロリと舐め回した。

「シエル、ヴァンパイアの王になるには、まずお前を倒さねばならないようだな。もっとも、満月の晩ではない時のお前は私の敵ではないが、な」

オズワルドはそのままエマを肩に担ぎ上げると、放物線を描くようにゆっくりと空へ舞った。

「…エマ!!」

オズワルドは頭を地上に傾け、背中をこちらに向けながら落ちていく。

オズワルドの背にもたれ掛かるエマの白く透き通るような顔が、彼らが塔の向こう側に消える前の一瞬、微かに見えた。

精巧に作られた人形のように美しいその顔を最後に見つめながら、わたしは窓に乗り上げた。

涙で前が見えない。

何もかもが、嘘みたいだ!!

エマ、カルロ……わたしを置いて行かないで!!

「エマ!!カルロ!!」

フラリ、と体が宙に舞う感覚で、わたしの体が窓を離れようとしたその時。

後ろからわたしを抱きしめる手に体が窓の上で静止した。

そのまま引き寄せられ、気付くと温かい胸に抱きしめられていた。

「……お前まで行くな!お前がいないと、私は生きてはいけない!」

搾り出すようなデュオの声。

……ああ、彼も孤独に耐えていたんだ。

この百数十年、ずっと……。

ふいにそう思った反動で、わたしは泣き崩れた。

「…ふぇ…うぅあぁあああああ!!!」

カルロ……エマ………死なないで!!!

今、こんなにも孤独を感じるわたしは…………

あなたたちの愛に支えられていた!!



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