ヴァンパイア†KISS

満月の夜のキス

翌日、ルシアはシエルを抱きかかえ、わたしに言った。

「ヴァンパイアの世界とは離れて、シエルとひっそり生きてみるわ。シエルは生まれ変わったんだもの。わたくしも、生まれ変わらなきゃね」

ヴァンパイアの世界と離れることはシエルの望みだったとルシアは言う。

「どういうこと?ルシア。シエルは最初からそう望んでいたの?」

「そうよ。赤ん坊に戻ってしまうと、シエルは今までの記憶を全て失ってしまうの。彼はそれをわかっていた。それをあなたに言ってしまって断られることを怖れたのね。自分は生まれ変わるんだって」

シエル………!!

シエル、あなたは全て失ってしまうことをわかっていて、『さよなら』とは決して言わなかった。

またいつか会える……って……!!

泣き崩れしゃがみこんだわたしに背を向け、ルシアが胸に抱くシエルを見つめながら言う。

「『デュオ兄さんと幸せに。さようなら、カレン』…それだけ伝えて欲しいと。シエルからの伝言よ」

「シエ…ル…!」

ルシアはシエルを抱きながら城の出口へと歩いていく。

最後に振り向くと、可憐な笑顔で手を振った。

「お兄様をお願い。100年後、また大きくなったシエルと現れるわ。カレン、ヴァンパイアにとって100年なんて、すぐよ」

100年なんてすぐ。

その言葉はルシアが自分に言い聞かせている言葉のようにも聞こえた。

わたしは夜の闇に消えていくルシアの美しい銀髪をいつまでも見つめていた。

シエル……さようなら……!!



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