危険な愛に侵されて。
けれど雪夜は私の呼びかけに反応せず、ぎゅっと抱きしめる力を強めてきて。
どうやら寝言のようだ。
───また、過去に関連する夢をみている?
もしそうだとしたらどれだけ辛く、怖い思いをしているのだろう。
「助け、て…」
悲痛な叫びにも聞こえ、ドクンと心臓が大きな音を立てる。
さらに彼は子供のように小さく震え出してしまう。
だから、だ。
だから雪夜は寝るのが怖いのだ。
悪夢にうなされ、目を覚ます。
そこに母親の姿はないけれど、ひとり脳内にははっきりと残っていて。
「……雪夜」
思わず雪夜から離れ、上体を起こす。
幸い彼は目を覚ましておらず、眠ったままだったけれど。
表情が苦しそうで、眉を歪めていた。
この先いつまでも雪夜は母親の存在に苦しめられるのだろうか。
解放されることはない?
例え大人びていても。
強くて権力があっても。
過去を乗り越えない限り、楽になることはない───
雪夜の手に指を絡ませ、ぎゅっと力強く握る。
「大丈夫だよ」
体を震わせ、苦しそうな表情。
もう過去に囚われる必要なんてないというのに。
空いているほうの手で雪夜の頬に手を添える。
まるで先ほどと逆だ。