桜の花が散る頃に
廊下に出ると、藍泉さんがあやとりをして遊んでいた。

なんであやとり?古風だなー…

「青年よ、一緒にやるかい?」

何故かあやとりに誘われる俺。
んで、暇だしやる俺。
俺も俺でどうかしてるわー。

「藍泉さん、なんで二ヶ月も休んでたの?」

淡々とあやとりをやりながら聞くと、

「夏実でいーよー。青年、名前は?」

と、はぐらかされたようななんとも言えない返しをされた。
あんま聞かれたくないのか、んじゃこれ以上は聞かないでおこうっと。

「塩谷秋人。食料の塩にタニ、アキにヒト。」

「へー、秋生まれ?」

「いや、四月生まれ。父親が野球選手だから、球種の名前つけられた。」

「へー、ユニーク。スライダーとかカーブとかじゃなくて良かったね。」

夏実は、そう言ってクスクス笑った。
実際候補に上がってたらしいから、俺からしたら笑い事じゃないけどな。

「これからは毎日学校来るからさ、ヨロシクね、秋人。」

その笑顔に、惚れてしまった。のかもしれない。

いや、夏実が教室のドアを開けた時から、もう既に、


「ところで、秋人はなんで廊下に立たされてるのさね?」

「なんでだっけ?北朝鮮の話が暇で、宇宙と交信してたら夏実が来て、なんか巻き添え。」

「え、交信の邪魔してゴメンね。」

「いや、あやとりのが面白いし全然いーよ。」

ホントにね。
今時あやとりやってる奴なんて居ないよ。
それと、宇宙との交信とかふざけた事言っても乗ってくれる奴も中々居ないよ。

「私が住んでた所は文明の利器が無くてさ〜、室内じゃあやとりくらいしかする事無かったんだよね。」

文明の利器って。
たかがゲーム機とかネットの事を、文明の利器って。

「俺も高校生になって初めてスマホを持ったくらいで、ゲーム機とかは無縁だったな。外で遊べ!って言われて。」

「私はこっちに来てからスマホなんてものを知ったね。てか、秋人はやっぱ野球やってるの?」

「いや、サッカー。」

夏実は俺の言葉を聞いて、腹を抱えて笑った。

「ま、そっちのがシュートって感じだけど。面白すぎ。」

夏実の大爆笑を見て、俺もつられて笑った。
夏実のツボがよく分からなさすぎて、面白かったからだ。

笑っている間に、北朝鮮史の授業が終わった。
教室に入ると、夏実と俺への視線が凄かったけど、夏実は気にしない様子で、

「さっきはお騒がせしてごめんねー!これからよろしくね!」

と挨拶していた。

やっぱり面白い奴だ。
教室の窓から空を見ると、雲間から少しだけ光が射していた。

[俺と夏実]end
< 2 / 24 >

この作品をシェア

pagetop