貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
その美しさに、風神さえも見惚れたのかもしれない。
いまの今まで荒ぶれていたことなど忘れたように風は止み、辺りはピタリと静まりかえった。

従者のひとりが、月を見上げてホッとしたため息をつく。

それでなくても寒い冬の夜である。
まだ雪こそ降っていないが、こう風が強くては耳が切れてしまうのではないかと心配になっていた。

ギーッ。

大きな車輪が軋む音を立てた。
と同時に、従者は立ち止まる。

「ん?」
首を傾げ、怪訝そうに横を向いて、
「空耳か?」と呟いた。

すると今度は、
「姫さま!」
はっきりとした声が耳に届いた。

それは間違いなく人間の男の声である。

声がする方を振り返った従者の目にとまったのは、なんとも朽ち果てた様子の土塀。

そういえばと、従者は噂を思い出して顔をしかめた。
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