貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
「とにかく早く食べて、急いで山をおりましょう。その辺にまだ熊がいるかもしれませんから」

「あ! そうよね、怖いから急ぎましょう。おにぎりは食べながらでいいわ。お行儀は悪いけれど、緊急事態だもの」

また熊が出てきたら大変だ。
ふたりは籠を背負って、急ぎ足で山を下りて行った。


里の近くまで来ると、山寺へと続く参道の脇道へ出た。

「ここまでくれば、安心ですな」

「そうね」

ふと、微かながらビーンという音が、耳に届く。

「なにか聞こえない?」

立ち止まって耳を澄ませると、鳥のさえずりに混じって、無常の響きが空を渡ってくる。

「琵琶ですかな?」

「――楽暎さまかしら」

琵琶の名士と言われる楽暎(らくえい)という名の僧侶が、この山寺にいる。

彼は尊い身でありながら権力争いに巻き込まれることを嫌い、若くして出家したという。
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