わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~

「卑しい人間。黙っていればいい気になって竜王に向かって何と失礼なのかしら。
地上で陛下が番を見つけたというから様子を見ていたけれど、やはり何も理解できないバカな人間だったわね。
番などと言うのは竜の本能を収めるだけの器にしかすぎない哀れな存在だとも知らないの。いい気なものね」
心底気に入らないというように私を睨みつける。

「せいぜい王妃と呼ばれて国のために働くといいわ。竜王の本当の愛情はわたくしにある。竜王が愛するのは同じ竜族の私よ。番ではないから側室で我慢するけれど、竜王の愛情は私のものだということを覚えておきなさい」

一瞬、何を言われているのかわからず、息が止まる。

投げつけられた言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

たかが番。
竜の本能を収めるためだけの器。
愛情は側室のミーナ様に。
ーーー同じ竜族の

「おやめください、ミーナ様!」

護衛のリクハルドさんが私の背後からミーナ様に強い調子で声をかけ、控えていたミーナ様の護衛の顔が強張る。

ミーナ様は低い声でリクハルドさんにもきつい言葉をかける。
「たかが護衛のくせに無礼なことを。私は王族の姫なのよ」

「ですが、楓さまはクリフォード様の、」

「うるさい!!黙りなさい!」

ミーナ様が私をかばう言葉を発しようとしたリクハルドさんを怒鳴りつけ般若のような顔で睨みつける。

「だいたいこの女はなにも知らない。竜王から鱗を頂き喜んで体内に入れているんでしょう。
そのせいで自分も舞い上がって愛だ恋だと浮かれてるに過ぎない。鱗の魅惑という魔力のせいなのによ。可笑しくて涙が出そうだわ。
ああ、でも人間は勤勉だって聞くから王妃の仕事は滞りなくしてくれるのでしょう、私と陛下の愛の時間を作るために」

高笑いをするミーナ様に室内の空気が凍ったように冷たくなり私は両手を握りしめた。
小刻みに身体が震えだす。
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