わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~
身を縮めた私を見てミーナ様が満足げに立ち上がった。

「帰るわ。たかが人間の小娘はせいぜい働きなさい。陛下とわたくしのために。
そうそう、今、宮殿内でされている工事は側室の、わたくしが陛下と過ごすお部屋を作っているのよ。あなたは離れの館で帰ってこない陛下を一人寂しく待つといいわ」

他人からこんなに強い敵意をぶつけられたのは初めてで腹が立つよりも投げつけられた言葉にショックを受けていた。

それでも立ち上がりミーナ様のお見送りのために扉に向かうと、彼女はすれ違いざまに耳打ちをしてきた。

「あなた一度でも”愛してる”とクリフォード様に囁かれたことことがある?ふふふ。ないんじゃない?私にはいつも囁いてくれるわよ」

胸を突き刺すような言葉に俯いていた顔を上げるとミーナ様と目が合った。

勝ち誇ったような笑顔のミーナ様はドレスの裾を翻し
「ではごきげんよう」と侍女と護衛を引き連れて颯爽と出て行った。

「楓さま」

パメラさんとリクハルドさんが私に駆け寄り、大丈夫ですかと声をかけてくれる。けれど、私の身体は冷え切っていて彼らの声にまともに返事をすることができない。

息をするのが苦しくなって胸に手を当てるとパメラが心配そうに声をかけてくる。

「楓さま。とにかくお座りくださいませ」
「うん・・・」

私がゆっくりと腰を下ろすと、パメラさんも隣に座って私の手を握ってくれる。

「こんなに手先が冷たくなってしまってーーお可哀想に。ミーナ様ったらなんてひどいことを」

優しくしてもらっているのに私の心は傷つき大きく動揺していた。

ミーナ様の言っていたことは本当だろうか。
今すぐにクリフ様に会って確かめたい気持ちと、もしそれが本当だったらどうしようと確かめてしまうのが怖いという気持ちで心が揺れる。

< 105 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop