闇の果ては光となりて
土曜の昼間だと言うのに、住宅街はやたらと静かだった。
自宅が近づくに連れ、嫌な緊張に包まれる。
光達が居るから、あいつがいても大丈夫だと分かってるのに、昨日の事が頭に浮かんで嫌な汗が背中を伝った。

「大丈夫だからね。僕はかなり強いから。それに彼らも強いしね」
繋いだ手から私の緊張が伝わったのか、光が繋ぐ手に力を込めてくれた。
「···うん」
安心させるように微笑んでくれた光の目を見て頷いた。
あいつは、皆がいたらきっと何も出来ない。
殴られる恐怖や、ビクビクとアイツを避けていた気持ちは、今までずっと諦める事で抑えてきたけれど、身体は嫌でも覚えてるんだね。
こんな弱気、私じゃない。
頑張れ! 自分に言い聞かせ最後の曲がり角を曲がった。

見えた。
白い三角屋根の道路に面した二階のベランダが大きいのが特徴の家。
自宅前にはあいつの車は停まってない。
胸元に手を当て、ホッとする。
しっかりとした足取りで進み、自宅の前で立ち止まる。

「ここ?」
「うん、そう」
光の問い掛けに頷いた。
「じゃあ、インターフォン押すね」
光は指を伸ばしボタンに手をかける。
昨日、家を飛び出す時に、携帯と財布以外持ち出せなくて、家の鍵は持ってないんだよね。
母親が居なかったらどうしよう、家に入れないかも。
インターフォンの音に反応が無くて不安になる。
「お母さん、居ないのかな」
「大丈夫。居なくても裏技あるから入れるよ。この家って裏口あるよね」
愛らしく笑っても、裏技というのが違法なものだと分かるよ、光。
「うん、台所の方にあるよ」
「なら大丈夫だね。ねぇ、長谷川」
悪巧みした様な笑みを浮かべた長谷川を振り返った光。
「はい」
長谷川···一体何するの?
彼がパンツのポケットをポンと叩くとカシャカシャと金属音がしたのは、気のせいだよね。

光はもう一度インターフォンを押す。
少しして『はい』と眠そうな声で反応があった事に、長谷川のひみつ道具を使わなくて良かったと本気で思った。
「私、開けて」
『···』
応答は無かったけれど、パタパタと廊下を走る音がして、鍵が開く音が聞こえた。
ドアノブを持って引き上げると、そこには部屋着を着た母親の姿があって、私達の姿を見て怪訝そうに眉根を寄せた。
「友達と荷物を取りに来ただけだから。皆、行こう」
要点だけを伝え、光達に目配せし家に上がる。
「お邪魔します」
光を筆頭にそう言って一礼してた後、3人は私の後を追いかけていた。

「···そう」
囁くような返事が聞こえた様な気がしたけれど、彼女がどんな顔をしていたのかまでは知らない。
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