闇の果ては光となりて
美男美女のキスシーンは、とても綺麗で様になっていた。
···あ、うん、そりゃ彼女居るよね。
あれだけかっこいいんだもん。
霧生に彼女が居ない方が可笑しいよ。
そう思うのに···胸の奥が酷く苦しくなった。
見たくないと思うのに、金縛りにあった様に目を逸らす事が出来なくて。
昨日、霧生に抱き締められた温もりが不意に蘇り、それが彼女の物だったんだと思った途端に、心臓をきゅっとつかまれたような気がした。
あれ···どうしたのかな。
なんだか苦しいよ。

「神楽、早く行かねぇとカレーが無くなるぞ」
コウの声に金縛りが解けていく。
呼吸まで停止していたのかと思うぐらい、大きな息を吐き出し、パンと自分の頬を引っ叩いた。
しっかりしろ、こら、と。

「あ、う、うん。そうだね」
返事をして前を向こうとした瞬間、こちらに視線を流した美女と目が合った。
彼女は霧生とキスをしたまま勝ち誇った様に目を細め微笑む。
締め付けられるような胸の感覚を、振り払い正面に視線を戻し、一歩を大きく踏み出した。

「お前、大丈夫か?」
心配そうなコウの声と表情に、平気な振りをする。
「何が? またお前って言ってるじゃん。私の名前は神楽だってば」
クスッと笑って肩を竦めたけれど、私は上手く笑えていたかな。
振りだなんて言ってる時点で、動揺してる様なものなのにね。
でもね、私自身、動揺してる意味が分かんないんだよ。

「···神楽、お前···なんて顔してんだよ」
どうしてコウが、そんなに辛そうな顔をしてるんだろう。
「なんて顔って?」
「クソっ···さっさと歩け、腹減りすぎて変顔になってんだよ」
ぶっきらぼうにそう言ってのけたコウは足を早めた。
いやいや、変顔ってなんだ。
「女の子に変顔は無いと思うなぁ」
呟く様に愚痴を言う。
「変顔は変顔って言うしかねぇだろ」
「失礼な。私が変顔なら、コウは凶器みたいな顔だよね」
いっつも何処かしら睨んで、しかめっ面で強面だし。
「はぁ? 言うに事欠いて凶器ってなんだよ。既に顔の表情の理から離れてんだろうが、人間ですらねぇ」
「それはそれで仕方ないよね」
「意味分かんねぇわ」
「若者よ、悩む事が青春だよ」
ワハハと笑ったら、コウは呆れたような視線を私に向けてきた。

「おーい、2人共、痴話喧嘩してないで早くおいでよ」
カレーを配膳してるテーブルの前で光が手招きする。
「はーい」
返事して勢い良く走り出す。
「あ、おい、ちょっと待て」
コウの焦った声に、
「競争だよ。どっちが早く辿り着くか。負けた方がアイス奢りね」
軽く振り返りコウを挑発する。
霧生達の方はもう見なかった。
私には関係ないもん。
そう···関係のない事だから胸が軋んでも、私は気づかない振りをする。
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