闇の果ては光となりて
コウと光とカレーを食べ終え、ジュースを飲んで寛いでると総長がやっと現れた。
「あ〜! 総長だぁ〜」
なんだか、ふわふわとした気持ちの良い感覚に、上機嫌なまま立ち上がると、総長の元まで駆け寄る。
足元が少し覚束ないのは、どうしてだろうか。
自分の身体なのに自分の物じゃないような。
因みに、コウとの競争は僅差で私の勝ちだった。
今度、商店街のアイスクリーム屋に連れて行って貰う約束なんだぁ。

「おっと、危ないだろうが」
総長の厚い胸板にドーンとぶつかる様に抱き着いたら、怒られはしたがしっかりと受け止めてくれた。
わ〜総長ってやっぱり身体大きいなぁ。
両手を回して抱き着いても、指先が届かないや。

「あ〜神楽ちゃん。抱き着くなら総長じゃなくて僕でしょぉ」
プンプンと言った感じに光が怒ってる。
「え〜総長の方が抱き心地いいもん」
首だけ振り返り、光を見る。
ほら、この頼りがいのある感触、堪らない。
総長って、大きなクマのヌイグルミみたいでいいよね。
「本当? じゃあ僕も抱き着いてみる」
立ち上がり駆け寄ってくる光。
「うんうん、いいよ。半分こね」
幸せは仲間と分かち合おう。
総長に抱きついたまま片側を開け、光の到着を待つ。

「総長!」
辿り着いた光が抱き着こうとすると、総長は手を伸ばし自分に到着する前にその大きな掌で光の顔をガシッと掴み止めた。
「男に抱き着かれる趣味はねぇな」
その声がやたらと低く聞こえたのは気のせいじゃない。
ピクッと肩を揺らした光が途端に大人しくなったもん。
「総長〜! 意地悪しちゃ駄目だよ」
抱き着いたまま、メッと総長を見上げれば、怪訝そうに眉を寄せ大袈裟な溜め息をつかれた。
解せぬ···。

「おい! 誰だ、この2人に酒を飲ませた奴は」
私から視線を逸らすと、鋭い眼光で周囲を見渡した総長。
騒いでいた周囲のメンバーが、たちまち静まり返る。
酒ってなんの事を言ってるのかな?
私、さっきからジュースしか飲んでないのになぁ。
ふわふわして気持ちの感覚って、お腹が一杯になったからだと思うんだよね。

「すっ、すいませんでした。俺がジュースと間違って缶酎ハイ渡しちゃいました」
はい! と行儀よく姿勢を正して手を上げたのは、さっき飲み物を差し入れてくれた男の子だ。
茶色の長めの髪を天辺でちょんまげみたいに括ってる男の子の顔は、青褪めさせてブルブル震えてる。
「可愛い。ウサギのヌイグルミ」 
可愛いなぁ〜ゆらゆら耳が揺れてる。
そう思った途端、クマのヌイグルミは要らなくなった。
ウサギちゃんをナデナデしよう。
「おいおい、今度は何処へ行く気だ」
総長から離れて駆け出そうとする私の首根っこを掴んだのは、いつの間にか現れた霧生。
「ウサギのヌイグルミを抱っこする」
指差ししたら、男の子が更に顔色を悪くした。
あれぇ? どうしたんだろう。
< 37 / 142 >

この作品をシェア

pagetop