闇の果ては光となりて
多くの怒鳴り声と、殴り合う音、何かの潰れる音が廃墟に響き渡る。
霧生達が順調に、こちらに向かってくる足音に、私は更に笑みを深めた。
もう直ぐ来る。
霧生達が、助けにやってくる。

「糞が! お前だけでも傷つけてやる」
怒り狂った岸部が、襲いかかってくる。
手に持った何かよく分からない棒を、とにかく必死に振り回した。
「く、来るな! キャー! あっち行って」
もう本当に闇雲に振り回し続けた。
だけど、大きな身体の岸部の本気に敵うことなんて無くて、何かよく分からない棒は直ぐに取り上げられた。
そのまま、引き倒される様にして床に押し倒される。
ブワッと嫌な汗が一瞬で身体を包み込んだ。 
挑発しなきゃ良かったと、後悔してももう遅い。

「大人しくしやがれ!」
「止めて! 離して!」
自分の上に伸し掛かって来た岸部退けようと、力の限り手足を振り回した。
「抵抗するな!」 
ゴンッと鈍い音共に、頬に焼けるような痛みが広がった。
ぐわぐわと頭の中身が揺れる感覚に襲われる。
殴られた事で、頭が朦朧として抵抗しなくなった私のシャツを力任せに引き裂いた岸部。

「い、イヤー! 霧生!」
声の限り叫び声を上げた。
「てめぇ! 俺のモノに手を出してんじゃねぇぞ。退きやがれ豚野郎!」
安心する聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、伸し掛かっていた岸辺が横に吹き飛んだ。
開けた視界、そこに見えたのは今にも泣き出しそうな霧生の顔。

「き、霧生」
「神楽!」
霧生の名前を呼んだ瞬間、弾かれたように駆け寄った霧生に抱き起こされ、痛いぐらいきつく抱きしめられた。
安心する霧生の香りと温もりに包まれた途端に、涙が溢れ出す。
霧生の首に腕を回してしがみつく。
「こ、怖かったぁ」
「ああ、もう大丈夫だ」
「遅いよ、霧生」
「ああ。悪かった」
号泣する私の背中をポンポンと優しく撫でてくれる。
「もう、無理。本当、無理」
「分かった分かった。好きなだけ泣け」
霧生は私をお姫様抱っこで抱き上げる。
急に高くなった視界に驚いて、涙が止まる。

「霧生、神楽は無事か?」
近くで聞こえた総長の声に顔を上げる。
「総長〜」
総長の顔を見てまた泣けた。
「殴られたのか? 痛いか?」
赤く腫れてるであろう頬に、優しく手を添えた総長。
「大丈夫。一発だけだし」
脳天には響いたけどね。
「樹弥、こいつ頼む」
何故か、私を総長に差し出そうとする霧生。
「どうするつもりだ?」
「岸辺の野郎をぶっ殺す!」
殺気をだだ漏れにして、低い声でそう告げる霧生に、総長は呆れた顔になった。
「お前の出番はもうねぇぞ」
総長が顎で指す先には、光とコウにボッコボコにされてる岸辺とアフロが居た。
あ、うん、無さそうだね。
あの可愛らしい光が、般若のような顔でアフロを殴る姿に、彼もやっぱり野良猫の一員なんだと改めて思った。
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