相思相愛ですがなにか?
「この話はおしまい!!さあ、帰りましょう!!」
私は努めて明るく言うと伊織さんの腕をぐいぐいと引っ張った。
ハイヤーだって私達がいつまで経っても来なくて困っていることだろう。
「月子ちゃん」
「え?」
伊織さんは名前を呼ぶとハイヤーの来る大通りから一本奥まった路地裏に私を引き込んだ。
「キスは誰かに見せびらかすためにするものじゃない」
壁に押し付けられるようにして見上げる伊織さんが怒っているのは気のせいなのか。
「伊織さ……」
壁に押し付けた理由を問う間もなく、強引に唇が塞がれる。
……狂おしいほどに求めていたキスは、極上のワインのような滑らかな舌ざわりだった。
息をつかせぬ応酬に、私は手探りで伊織さんの背にしがみ付いた。
挨拶程度のバードキスとは違う、本能に訴えかける類の本気のキスだった。
火がついたのはどちらが先なのか、今となってはわからない。
もっとして欲しいと望むだけ、伊織さんは惜しげもなく私にキスの雨を降らせてくれた。
誰もいない路地裏で壁にもたれかかって、いつまでも互いを貪り合う。
ああ、もうっ。伊織さんのことしか考えられなくなっちゃう……。