相思相愛ですがなにか?

「伊織くんは良い人だけど、パパはやっぱり納得できないよ。月ちゃんはお家のことは気にせず好きな相手と結婚していいんだよ?」

トントン拍子で決まった結婚に一番反対しているのは、当の本人ではなく南城家の現当主であるパパのようだ。

顔合わせで互いの意思を確認しあったのはつい先週のことなのに、早速ケチをつけたくなったらしい。

(心配性ねえ……)

次々と皿が運ばれては下げられていく中で、パパは結婚生活における愛情の重要性をこちらが引くぐらい熱心に説いていった。

私はメイン料理である和牛サーロインのグリルをナイフで切りながら、見当違いの心配をするパパを冷ややかな目つきで見ていた。

旧華族の名門出身の割には、時世の流れに逆らうことなく現代社会に柔軟に適応する頭の柔らかいところがあるのがパパの良いところだが、人の話を聞こうとしないのが悪いところである。

お兄ちゃんと私の密約を知らないパパにとって愛のない政略結婚を娘に強いることは、耐え難いことらしい。

強面で髭面のいかにも気難しそうな見た目に反して、娘にはとことん甘い父親である。

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