相思相愛ですがなにか?
「どれも素敵で選べそうにないわ」
あちこち目移りしてしまって、とてもじゃないが自分ひとりで選べそうにない。
伊織さんが来てから一緒に考えてもらおうと、決断を先送りにする。
「あの、久喜さん。これって……」
装飾の詳細を尋ねるべく顔を上げようすると、突然二の腕に生ぬるい感触がしてぎょっとする。
デザイン画に夢中になっていた私はいつのまにか久喜さんが隣に腰かけていたことに気が付かなかったのだ。
応接セットの二人掛けのソファは体重差の分だけ久喜さんの方に不自然に傾いている。
その傾斜を利用するように、久喜さんは私の背中に腕を回し無防備に露出していた二の腕にそっと手を添えていたのだった。
「あ、の……」
……近い。近すぎる。
顧客と店員の距離を明らかに逸脱した行為に私は硬直していた。
「どれもあなたのために考えたものです」
「久喜さん……?」
オーダーメイドの指輪なのだから顧客のためにデザインを考えるのは当然のことだが、久喜さんは明らかにそれ以上の含みを持たせていた。