極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
手ごわい相手には優しさを


貴行と気持ちを通わせてから早いもので一ヶ月が経過し、季節は夏真っ盛り。連日、蒸すような暑さに見舞われている。

新婚生活は軌道に乗り、陽奈子はカフェでの仕事の傍ら、貴行のサポートに日々奮闘中だ。

今日は仕事が午後から半日のシフトのため、午前中に貴行の母、阿佐美とお茶をしてから店に向かった。

駅の改札を抜け、高層ビル群の谷間を強い日差しのなか歩く。なるべく影になるところを選びたいが、ちょうど太陽がてっぺんにいるため、なかなかそうもいかない。

(日傘を持ってくればよかったなぁ)

そんな後悔を抱えながらハンカチで額に滲んだ汗をぬぐっていると、陽奈子の目線の先に女性が座り込んでいるのが見えた。
歩道の隅の植え込みの影。一画だけくぼんだ場所に座っている。

最初はただ単にそこに腰をかけているだけなのだろうと思ったが、どうも様子がおかしい。
胸のあたりを押さえ、苦しそうに見えるのだ。そのうえ、どことなく見知った顔のようでもある。

(あれっ? もしかして、おばさま……?)


貴行の伯母、智子にそっくりだったのだ。

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