恋のレッスンは甘い手ほどき

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夕飯には消化に良さそうなうどんを作り、出来上がったと部屋の外から声をかけるとすぐに貴也さんが出てきた。やはり寝ていなかったのかと思う。
急ぎの仕事は終わったと言っていたが、そこまでしないといけないほど仕事が詰まっているのだろうか。
それとも、仕事をしてないと落ち着かないのだろうか。

「夕飯作ってくれるとは思わなかった」

うどんをすすりながらそう話す貴也さんにため息を漏らす。

「私だって弱っている人の世話ぐらいしますよ」
「迷惑かけたな」
「そうですね、体調管理も仕事の一つですよ」

つい意地悪な言い方になってしまったが、貴也さんは苦笑して「言い返せねぇ」と笑った。
きっと今までもこういうことはあったのではないか、またあるのではないかと思うと、明日からのことが気にかかる。
チラリと茉莉さんのことが頭をよぎるが、やはりずっと考えていたことを提案しても良いだろうか。
断られるのを承知で、コホンと軽く咳払いをして言った。

「あの、良かったらご飯くらいは作りますよ」

昼間から考えていたことを口にすると、貴也さんは驚いたように目を丸くした。
あ、やはり迷惑だったろうか。自分のことは自分でと契約したし、そこまでするのはおせっかいだったかもしれない。
すぐさま自分の考えを反省し、「忘れてください」と言おうと口を開くと「いいのか?」と先に聞かれた。

「え、はい。あ、でも平日だけですけど」

休日は遅くまで寝ていることが多く、ダラダラ過ごすことが多いからご飯は適当に食べている。だから休日にきちんと食事を作ることが少なかった。

「二人分作るのって面倒じゃないか?」
「いえ、別にひとりもふたりも変わらないですし。貴也さん、朝はコーヒーしか飲まないようですけど、やっぱり少しでも食べるとエネルギーになって活力になるし、出勤時間がずれている時でも事前に作っておけば問題ないですし。夜は食べるときは教えてもらえれば多めに作りますから。要は自分の分を作るときに少し多く作ればいいだけなんで、別に面倒ではないです」

少し早口になりながらもそう説明すると貴也さんが嬉しそうに笑った。



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